パフォーミングアーツ
「挑戦する」という一歩がなければ、どんな夢も叶わないからこそ、まずは行動を
小原 好美
- 職業:
- 声優
- 所属:
- 大沢事務所
お芝居との出会いについて
小原さんが初めて「お芝居」に出会ったのはいつ頃でしたか?
今でも覚えているのですが、小学2年生の時の学芸会で『スイミー』を演じたのが、お芝居との初めての出会いです。子どもながらに、演じることの楽しさを知り、そこからお芝居に興味を持つようになりました。その当時は、声優や俳優という仕事について深く理解していたわけではありませんが、休み時間や放課後になったら友だちと一緒にお芝居ごっこ。とにかく演じることが楽しかったです。転機となったのは小学校3年生の三者面談の時。「お芝居をやりたい!」と先生や母親に伝えたところ、「お芝居をするなら声優さんの方が良いんじゃない?」と言われたのです。どちらかというと目立つタイプの子どもで、声が通るし、声を聞いていて心地良かったことから、そう言われました。
先生やお母さまは、小原さんの声優としての才能を見抜いていたのですか? それはすごい!
先生や母親にそう言われて、放送委員に入って運動会の実況をやったりもしましたが、自分としてはピンと来ていなくて、「へへっ!」としか思っていなかったです(笑)。後に母親に聞いたら、先生は「ほかにはない声をしている」と褒めてくださっていたようです。
その後、ヒューマンアカデミーに入学されると思いますが、進路を選ぶ上でどのようなことを考えていましたか?
中学、高校と年齢を重ねるにつれて、テレビや映画、舞台とさまざまな芸能に触れ、全身を使ったお芝居に魅力を感じるようになりました。高校卒業後の進路を決めるタイミングで、その想いを両親に伝え、本格的に学校選びをスタート。そこで見つけたのがヒューマンアカデミーです。その当時はお芝居の経験がまったくなかったので、ここで演技の基礎や発声方法、身体表現などを学ぼうと考えました。
ヒューマンアカデミーの印象
ヒューマンアカデミーのオープンキャンパスには参加しましたか?その時の印象を教えてください。
参加しました。校舎を見学している最中に、学内オーディションに合格して事務所に所属された先輩方のチラシを見かけました。厳しいことを言えば、「声優になりたい」「俳優になりたい」と思って入学しても、全員が全員夢を叶えられるわけではないという、厳しさを実感しました。それでも、目を輝かせながら夢に向かって努力している在校生や、生徒の目を見ながら熱心に話す先生を見て、「業界としての厳しさを誠実に伝えながらも、生徒一人ひとりと向き合ってくれる場所なんだ」と感じました。
役者事務所への所属と、声優を目指したきっかけ
その後、ヒューマンアカデミーに入学して、オーディションに参加して役者事務所に所属されましたね。その後声優を目指すことになったきっかけを教えてください。
はい。役者事務所に所属して2〜3年が経ち、順調にお仕事もいただけていました。ただ、「自分のやりたいお芝居ができているか」とふと立ち止まった時に、そもそも自分のやりたかったお芝居や表現というものが見えなくてしまって......。その時に思い出したのが、小学校の三者面談で言われた「お芝居をするなら声優さんの方が良いんじゃない?」という言葉。この言葉は子どもの頃からずっと心にあったものの、挑戦はしてきませんでした。お芝居や表現という点では役者と同じでも、声でお芝居をする声優の道に進もうと思いました。
役者として活躍しながら、声優の道へ進もうとするのはとても勇気のいることだと思います。
最近はアニメなどの収録現場で10代の声優さんを見かけることも増えていますが、当時の私は23歳。挑戦するには遅いかもしれませんが、ラストチャンスだと考えて、前の事務所を辞め、アルバイトをしながらヒューマンアカデミーに通うことを決意しました。
再びヒューマンアカデミーに入学しようと思った理由を教えてください。
私の頭の中で「ヒューマンアカデミーは声優事務所とのネットワークが強い」というイメージがあったので、在学中にお世話になっていたスタッフの方に相談しました。その当時から、現在所属している大沢事務所に入りたいと思っていた私に対して、「そんな簡単に入れる事務所じゃない」と言われましたが、声優がダメならアルバイト先のスタッフになる、それがダメならほかの道がある。覚悟を持って挑戦しないとズルズルしそうだなという気持ちから入学を決めました。
自分と向き合う時間を大切にしてきた学園生活
新たに声優の道を進むにあたって、不安はありましたか?
そうですね。入学したばかりの頃は不安でしたね。周りを見渡すと、小さい頃からアニメを見ている子や、声優を目指している子が多いのに対して、私はアニメに触れてきた経験が多くありません。声優としての技術や経験もないので、はじめのうちは、心の中で「こういう声を出したい」という理想の音があっても、出せないというのがつらかったです。
在学中はどのようなことを学びましたか?また、学園生活で意識したことがあれば教えてください。
発声方法や演技の基礎、感情の開放など、いわば声優としての基礎や土台となるレッスンをくり返し学びました。授業を受けられるのは楽しかったですし、クラスのみんなと一緒に作品を作り上げていくことには達成感がありました。確かに「お芝居を楽しむ」ということは声優にとって大事な感情ですが、ただ授業を受けて楽しんでいるだけだと、楽しいだけで終わってしまうのも事実です。声優を目指す方のなかには、「こういうアニメに出たい」「こういう役を演じたい」と思っている人も多いと思います。でも、自分が出している(と思っている)声と第三者が聞く自分の声は異なり、本当にそういうアニメ・役に向いているかというと違うと思います。いかに自分と向き合うかが実際のお芝居に出るため、自分にはどういう表現ができるのか、どういったお芝居が向いているのかというように、自分と向き合う時間を大切にしていました。この時間は、プロの声優になった今も大切にしています。
とても興味深いですね。どういう視点で自分と向き合えば良いのでしょうか。ヒントを教えてください。
これまでの自分を振り返り、そもそもなぜ声優になりたいんだろう、最初に抱いていた目標は何だったのだろう、声優を目指したきっかけは何だったろう、自分の周りにはどれだけの事務所があるだろう、今後こういう役と向き合う上で自分に足りないものは何だろう......。自分のことは自分が一番理解しなければなりません。皆さんも学園生活で自分と向き合う時間を作ってほしいです。
学内オーディション・面接対策
学内オーディションで、現在所属している大沢事務所に所属されましたね?どのような対策をしましたか?
はい。初めてのことでわからないことだらけでしたが、嘘はつかないようにしました。書類にもその時思っていることを書いた記憶があります。志望動機の欄に「●●という声優さんがいて、その作品をすごく見て」と書く人が多いと思いますが、私は憧れの声優さんがいなかったので、この事務所でお芝居ができたら、生きていく上で得られるものが多いというような方向性でまとめ、これで伝わらなかったら仕方ないと考えていました。
オーディションで印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
面接はとても緊張しましたね。「憧れている人はいますか?」という質問もありました。大沢事務所には素敵な声優さんがたくさんいらっしゃるのは知っていましたが、私はその方々になれるわけじゃありません。この仕事をしていくなかで、自分というものを見つけていきたいという率直な想いを伝えました。また、実技審査ではナレーションと、指定されたセリフや役を覚えて、その場でお芝居をしました。最終面接では自分よりも年齢の低い候補者が多く、気持ちは負けていましたね。落ち込みながら電車で帰っていると、ヒューマンアカデミーのスタッフの方からの電話で「大沢事務所に決まったよ」と言われた時は思わず泣き崩れてしまいました。
オーディションで出会った作品に恵まれた
デビューまでは順調だったのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。オーディションに合格したといっても、「研究生」の扱い。あくまでスタート地点に立っただけで、研究生の間に結果を残さないと、声優としてデビューすることはできません。作品のオーディションに参加しても、結果がついてこない日々が続き、何度も心が折れそうになりましたが、私の場合はオーディションで出会った作品に恵まれたと考えています。
それは『月がきれい』(水野茜役)のことですね。
はい。2016年4月に研究生として入り、その2か月後には『月がきれい』のオーディションが迫っていました。オーディション概要に「声優としての演技力は重要視しない」「ヒロインとして役を生きて、セリフではなく会話をしてほしい」と書かれていたため、これまでやってきた役者としての演技経験を生かすことができました。その後に行われた『魔法陣グルグル』(ククリ)のオーディションでは、声優としての演技力が求められたものの、主人公を演じた同じ事務所の声優さんが、物語と同じように親身にフォローしてくださり、何とか乗り切ることができました。私が声優を目指したのは23歳と、周りに比べて学び始める年齢が遅く、「もっと早く大沢事務所に入っていたら」と思った時期もありましたが、そもそも2016年に入っていなければ、これらの作品には出会えなかったと思うと、大沢事務所との運と縁を感じずには得られません。
声優という仕事のやりがい
声優という仕事のやりがいや魅力は、どういったところにありますか?
自分の人生はひとつしかありませんが、いろんな作品に出演し、いろんな役を演じることで、いろんな人生を生きていけること。これはほかの職業にはない魅力だと思います。作品をきっかけに、多くの人に知っていただけるというのもありがたいですし、とても嬉しいのですが、それ以上に、原作者の方やスタッフの方から「お願いできて良かったです」と言われた時に大きなやりがいを感じます。1本のアニメを作るにはとても多くの方が関わっていますし、原作も作者の方が時間をかけて作り出したものです。その膨大な時間のなかに自分が存在し、「素敵なお芝居でした」という言葉をかけてもらえるというのは、声優にとって最大の喜びです。
今後の夢や目標があれば教えてください。
「声優としていろんな役に出会いたい」という気持ちは変わらず持っています。ただ、「声優」という枠にとらわれずに、いろんな表現に挑戦したいとも考えています。例えば、2022年には写真集を出して、お芝居以外の表現者の方々と一緒に仕事をすることができました。これからもさまざまな表現者の方と、いろんな形でお仕事ができたらいいなと思いますし、時間をかけて自分の夢というものを作っていけたらと思います。
行動ひとつで、人生は大きく変わる
最後に、この業界を目指す方や声優を目指す方へメッセージをいただけますか?
約10年前は皆さんと同じ学生でした。声優に挑戦する前は、先が見えずに不安で怖かったです。時間は全員に平等に与えられていますが、本当にあっという間に過ぎてしまうものです。そういう意味では、少しでも「なりたい」と思うものがあれば、挑戦すべきだと思います。
声優として活躍できるのはほんのひと握りで、必ず夢が叶うと約束することはできませんが、「挑戦する」という一歩がなければ、どんな夢も叶いません。だからこそ、少しでも「なりたい」という意思があるなら、一度オープンキャンパスに参加して、その世界を覗いてみるのが良いと思います。その行動をとったことで、人生は大きく変わるかもしれません。
周りの方々からすると、「順調にデビューした」と思われるかもしれませんが、事務所に所属してからも何度も挫折を経験し、正直、声優という仕事が本当に向いているかどうかはわかりません。だから、「声優になれなかったら終わり」というようなことは考えずに、自分の心の扉を開けて、まずは行動するということが大事だと思います。
小原 好美
- 職業:
- 声優
- 所属:
- 大沢事務所
神奈川県出身。大沢事務所所属。高校卒業後、総合学園ヒューマンアカデミーに入学。2年間の女優経験を経て声優の道へ。『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』(藤原千花)、『月がきれい』(水野茜)など、人気作品の声優を多数演じる。